おそらく最初の爆発音で、凛は、本来アリーナでしか行われないはずの戦闘音に疑問を抱き、ここに駆けつけたのだろう…。
通常、マスターとそのサーヴァントは仮に相性が悪くて仲たがいすることはあっても、互いに殺しあうまでには至らず、どこかで折り合いをつけるものだ。そのありえないはずのマスターと俺の殺気めいた剣の打ち合いに、マスターの友人となった凛が驚くのも無理はなかった。
「マスターがムーンセルに悪性プログラムウィルスを打ち込まれた。そのせいでマスターは……」
「どうしてムーンセルがそんなことを・・・。学園での戦闘はムーンセルの方が規制しているはずじゃない!」
凛は、能面のように冷たく無表情になってしまったマスターとそのサーヴァントたる俺を交互に見比べながら…いぶかしみつつ問いかける。
だが、問われて、私がムーンセルよりもマスターを最優先にしてしまったから……などど、言えるはずもなかった。
そして、今の凛の言葉から推測するに、ルールを作ったムーンセル自身がルールを改ざんしだし、掟破りを行ってまで私とマスターの消去を図ろうとしていることは明白だった。
「………………。凛、物は頼みだが、君の力でマスターを治せないか?ムーンセル製のプログラムだ。一般的な毒や素人ハッカーのプログラムとはレベルが違うとわかってはいるが……」
「 っ!!・・・・・・。難しいわね、私は治癒は不得意だし。相手がムーンセルだと、私なんかの魔術じゃ・・・」
「……そうか。」俺は凛にそう答えるのが精一杯だった。
今、凛も混乱していることだろうが、ここに来て、俺でもどうしたらいいのか…全くわからないというのが偽らざる本心だった。
これまでも、主となった者を行き残らせる為に、敵を切り伏せる力と心眼は磨いて来たつもりだった。だが、所詮俺は剣を作り出すだけの男。悪を切り裂く剣は持ち得ても、マスターに巣くった病巣を治癒させる手段は…持ち得ようもなかった。
他者から助けを求めようとも、我々を助けてくれる者は…マスターの友人となった…凛だけである。
その頼みの綱である凛の返答も………。
もはやこれでマスターを救う方法は、皆無。
…………。
マスターが助からないのならば…このままムーンセルのウィルスに支配されたままではなく、いっそ俺のこの手で…自由にしてから、最後をマスターとともに……。
わずかな逡巡の後、自分の中から出た答えはそうだった。
自
分のせいで、マスターはムーンセルのウィルスに侵されてしまったというのに、最愛のはずのマスターをこの手で殺める……そのあまりに皮肉な結論に、かつて
理想を抱きながら現実との狭間でもがいていった生前の葛藤と自分自身に対する嫌悪に既視感を感じながら、いや…この状況はある意味一番自分にはお似合いな
行為なのかもしれないと自嘲しつつ、俺はマスターの前へ歩みだす。
「アーチャー、あなた…まさか……」
後ろから響く凛の声を無視して。
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