それぞれの道

・・・・・・あの時私は、士郎が私の手の届かない場所にいってしまったと思った。


聖杯戦争以来、私は士郎のことはずっと気に入っていた。
だから、魔術師の弟子として士郎をロンドンに連れて行った。
私の魔術の実験に付き合わせながら、士郎の魔術の修行をみてやって来たし、士郎をロンドンの橋から突き落としてやったこともあった。
昔から他人に甘かった士郎が何かトラブルに巻き込まれたら、いつも相談に乗ってあげた自負が私にはあった。士郎も私のわがままを聞き続けてくれた。

ずっとこんな関係が続くと想っていた。けれど・・・


ロンドンに行って以来、師匠として士郎の魔術を鍛えて続けてきた私は、士郎の強化と投影の魔術が実践で戦えるレベルになった後、その士郎が突然消えたことに私は愕然とした。

それからロンドンのどこを探しても士郎はいなかった。
日本に戻ったのか?と冬木市の士郎の家を覗いてみたけれど、聖杯戦争中にはあれほど賑やかだった衛宮家には誰もいなかった。

「士郎、あんた、どこに行ってしまったのよ・・・」

それ以来、冬木にある遠坂家代々の土地の管理をしながら、魔術師協会からの仕事の合間をぬって士郎の家を覗きに行く日々が続いた・・・そして・・・ある夜。

ふと、あいつらしい魔力を感じたので、まさかと思い・・・土蔵を覗いてみたら・・・
そこには姿が変わりきった士郎の姿があった。
ロンドンの頃でもその体格は成長し続けていたけど、あの頃よりもっとしっかりとした体つきと・・・髪が銀色に白く、その肌は褐色に変わってしまって・・・でも、確かに彼は士郎だった。

「士郎!」
呆然と遠くを見つめながら、疲れたように冷たい土蔵の壁に寝ころんでいた士郎はゆっくりとこちらを振り向く。
「あんた、士郎でしょ?。一体どこに行っていたのよ!」


「あぁ、遠坂か・・・、元気そうだな・・・」
変わり切ってしまった姿と同じくらいにその目に、感情という輝きは抜け落ちていた。

「元気そうじゃないわよ、士郎、あんたロンドンから勝手に出ていって何してたのよ・・・。師匠を無視して弟子が勝手なことをするのは許さないんだから・・・」
思わず士郎にそれまでの感情を叩きつける。

「わ るい。遠坂に以前言ってなかったっけ、修行をつけてもらうのは俺が一人前になるまでだって。俺もそろそろ夢に向かって走っていこうかと思ったんだ。子ども の頃からの夢だった、正義の味方になる、っていう夢をさ。黙って出ていったのは悪かったけど・・・遠坂も忙しそうだったし・・・」
だからって、一言いってくれれば私も納得出来たのに・・・。

高ぶった自分の感情を抑えながら、私は士郎の現状を探る。
「正義の味方って、何をしているの?」

「海外の戦場でNGOのボランティアというか、レジスタンスというか、まぁ人助けをね・・・。まぁ、実際には傭兵みたいなものだけど・・・」

「士郎の甘さは今に始まった訳じゃないけど、他人のことよりももっと自分を大切にしなさいよ」
 聖杯戦争中にも士郎の幼い頃の事情は聞いていた。士郎の歪みは治せそうにないとわかっていてもそういわずにはいられなかった。

「わかってる。だけど、これだけはいくら遠坂でも変えるつもりはないんだ。ガキの頃からの・・・親父、切嗣と約束した夢だったんだ。親父の代わりに正義の味方になるってね。遠坂には遠坂の道があるだろ?ロンドンで・・・遠坂にずっと甘える訳にはいかなかったから。」

「士郎が幼い頃に災害にあって、お義父さんに助けられたことは知っているわよ。私だって、今さら士郎を無理矢理ロンドンに連れ戻すつもりなんてないわ」
本当は士郎をロンドンに連れ戻したかった、あの時のように私のわがままに付き合わせたかった・・・だけど、士郎の固い決意の秘められた瞳を見ていると、もう・・・そうは言えなかった。

「遠坂は、今何しているんだ?」
「魔術師協会からの仕事をやったり、魔術の研究とか遠坂の土地の管理とか・・・まぁ色々ね」
「そうか、遠坂も大変そうだな」
「士郎ほどじゃないわよ。」

士郎の変わりきった姿に正直驚きを隠せない思いはあったが、なんとか表情に出さないように話せた。
士郎のその腕や脚の筋肉の付き方、さりげない動作からうかがえる洗練された格闘技術。
自分から離れてしまった士郎に寂しさを感じずにはいられなかった。

それから私達は離れていた時間に過ごした互いの出来事を話しあった。

「士郎、その体どうしたの?髪の色とか・・・」
「ああこれか、どうしてこうなったかわからないんだ。俺は向こうの戦場で戦ったりしていただけなんだけど・・・」
「士郎、もしかして戦闘中、魔術とか使ってない?投影のやり方が悪かったとか、私が渡した魔術回路の酷使とか。そう言えば・・・士郎には固有結界もあったはずよね。術者の能力以上の魔術の使いすぎとか、そういった術者が無理をして魔術を使った反動かも・・・」
「そうか、やっぱり遠坂はすごいな。俺よりも何でもわかるんだな。」

はずみだした話の中で、士郎は行った先の国々で目にしたどうしようもない戦場のありさまを吐露してゆく。

お義父さんと同じように争いを止める為に戦いたかった士郎のその決意・・・そして、
戦場でのすさんだ人々の心、私利私欲に走った人間の醜さ。過酷な世界で一生懸命生きようとした力無き人達の様子。その全てを救いたい、なんとかしたいと・・・士郎は苦悩していた。

「遠坂・・・お前ならどうするかなって・・・」
そこには、私ならなんとかできる・・・という期待と憧れが込められていた。

魔術師なら冷徹に物事を判断しなければならない。出来る手だては打つ、だけど変えられないことを変えようとする無駄を試す愚かさはあってはならない。魔術師としての私は、士郎に・・・それは甘いと告げていた。だけど・・・
「馬鹿ね、勝手に師匠から出ていって当然の結果よ。いいわ、士郎も甘いけれどその士郎に付き合う私の甘さもなかなかのものよね。士郎にはこの心の税金、利子を付けて返してもらうから・・・」
士郎のその甘さが私は好きだった。

士郎は苦笑いしながら、私なりの励ましを聞いていた。

話しも長くなったと思った頃、士郎は疲れて静かに眠ってしまった。
私は士郎を起こさずに、土蔵で冷え切ったその体が暖まるように、私は士郎の部屋から毛布を運び出し、士郎に掛けてあげた。
翌朝様子を見に行くと、そこには寝ていたはずの士郎は消えていた。
再び士郎を探しても会えるだろうか・・・?と不安が私の胸をよぎる。

実際、その後士郎の家を見に行っても、しばらく士郎がいない日が続いた。

けれど・・・あの夜以降、士郎は時折・・・困った時には、私のところへその様子を伝えるようになった。私は、士郎は離れていても必ず自分の元に帰ってくると確信することができた。


・・・・・・・・・・・・


私は遠坂の家の管理と、・・・時々・・・衛宮の家もついでにその様子を見に行く。

相変わらず士郎が戦場に向かう日々は変わらない。
私も魔術師としての自分の生き方を変えるつもりはない。

私達の道はそれぞれ違ってしまったけれど、それでも、二人の心は繋がっていると信じている。









士×凜 士郎が傭兵家業をやり始めるころの話。 士郎は衛宮士郎というより、アーチャーが士郎だった頃のエミヤシロウというニュアンスです。正確には、エミヤ×凜。 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル