白き聖杯の中で
アーチャーの近くにいたおかげだろう、彼の魂はサクラの方ではなく無事に私の中に回収出来た。
今、シロウは腕をもがれたその傷にアーチャーの腕を取り付ける手術が終わったところで、リンがその側についていた。
私もシロウとお話したくない訳ではない。
だけど、まず先に話をしないといけない人がいた。
意識を私の体内に向ける。
倒されたほとんどのサーヴァントの魂はサクラに持って行かれたが、アーチャーは私の中にいた。
ここは聖杯たる私イリヤスフィールの中である。アインツベルンを白く染める雪原のように真っ白い世界の中で紅い衣をまとった隻腕のサーヴァントが一人で座り込んでいた。
私は彼の前に降り立つ。
「あなたの腕は無事にシロウの体についたわ、アーチャー」
「・・・・・・イリヤスフィール。ここは一体どこなんだ?」
「ここは私の中。聖杯戦争の本当の仕組みを知らないあなたは混乱するでしょうけれど、私は聖杯の器で貴方達サーヴァントの魂を保管する役割を持っていたの」
「そうか、聖杯戦争で戦う魔術師たる君自身が聖杯だったとはね。」
アーチャーは自身の成すことは全て終わったと悟っているのだろう、、、諦めとやすらいだ目で私を見つめる。
「普通、サーヴァントの肉体はただの人間につなぎ合わせても繋がらないどころか、その力に侵され恐ろしいことになっていたはずよ?だけど、あなた達の肉体は同一のものといってもいいぐらいなじんだ。その意味をあなたは知った上で、シロウに腕を譲ったのね?」
「そうだ、認めたくはないが・・・衛宮士郎はかつての私自身だった。聖杯の器たる君なら私の魂をなぞればすぐにわかるはずだったな。」
「・・・・・・アーチャー、やっぱりあなたシロウだったのね。」
「イリヤ、すまなかった。わざわざ言うことではないと思ったのだよ。衛宮士郎は君の手をとった。私の腕が役に立つはずだ・・・。」
「その腕がシロウを殺すと分かっていても?」
「・・・・・・私はかつて自分の力の限界も知らずに自分の夢を正義の味方を追いかけた。その責任は私自身が負うべきだし、積み上げたこの力を渡した以上は、その代償の結果は渡した衛宮士郎にまかせるさ」
「・・・・・・・・・」
「そんな目でみないでくれ、イリヤ。君が無事な姿が見れて、俺は嬉しいよ。」
私はアーチャーを抱きしめて囁く。
「私ね、お母様と私を切嗣は見捨てたと思っていた。でも、シロウに出会ってそれは誤解だとわかったの。私もこの先どうなるかわからないけれど、出来る限り・・・シロウを死なせないようにするわ」
アーチャーは静かに私の抱擁を受け止め、聞いている。
「私はシロウの姉だもの。だからあなたの姉でもあるの。サーヴァントになってしまったけれど、だからこそあなたは私よりも何度も長い時間を生きることが出来る。だからこれは姉からのアドバイスよ、もっと力を抜きなさい、シロウ。」
「・・・・・・イリヤ」
私たちは姉弟としてお互いの無事を喜びあった。
ヘブンズフィール桜ルートにて、アーチャーの魂がイリヤに取り込まれた時のイリヤとアーチャーのお話。