魔法陣
切嗣×イリヤのはず? 時期はhollow ホロウの衛宮邸にて、士郎達が集って生活しているはずです。イリヤも士郎達のところへ遊びに行っているところです。(注意 Fate/Zeroを読んでから読まれることをおすすめします。)
屋敷の主を害する意志がないのならば誰でも受け入れる、防御の結界としては一見疑問を感じるさせるその解放的な母屋のつくりとは裏腹に、ここは生まれ育った・・・雪で閉ざされた石づくりのアインツベルン城を思い起こさせる。
イリヤスフィールは、今、衛宮邸の土蔵の中にいた。
第5次聖杯戦争にてアインツベルンを裏切ったキリツグとの確執によって時に憎しみ戦いあったこともある自分の義理の弟である、衛宮士郎。
彼が聖杯戦争を終了してなおこの土蔵で鍛錬を続けていたことは知っている。
何故、キリツグは・・・アインツベルンを、お母様と私を見捨てて、代わりに士郎を我が子同然に共にこの場所でのうのうと暮らしていたのだろうか?
ずっと、そう想っていた。
聖杯戦争が到来した時には、積もり積もったその怒りをバーサーカーによって、彼にぶつけるしか私は自分の心を保つことは出来なかった。
なのに、士郎は・・・聖杯戦争を終わらせて、自分のことを憎まずに受け入れた。
それがさも当たり前であるかのようにだ。
衛宮邸のもう一つの側面をもつこの土蔵は、士郎がいなければ自分が足を運ぶことはないはずだったのだけれど、士郎達をついさっき、からかってきて逃げ場が欲しかったという理由でこの土蔵に逃げ込んだのだ。
ここにくるいつもは士郎と戯れるか、投影練習で造られたがらくたを興味半分に眺めるだけなのだが、今は・・・しばらくこの土蔵に隠れていなければならない為、すこし退屈だった。
見慣れていたと想っていた土蔵の中をいつものように眺め歩く。
鍵は自分の魔法で簡単に開けることができたが、扉を閉めれば密閉された土蔵の空間は自分の城と同じ感覚を錯覚させる。
狭い空間で歩を進めれば、いずれはそうなるのも偶然ではなかったのだろう。
暗い閉ざされた土蔵の片隅に、六芒星の魔法陣が輝きだした。
「っ!?、これは、この術式はアインツベルンの術式なの?」
士郎が鍛錬を積むこの土蔵は、いわば簡易的な魔術師の工房と何ら変わらない。
自分の魔力に、予め設置された魔法陣が反応すること自体はなんら不思議もないはずだったのだが・・・
「イリヤ、イリヤ? どこ逃げたんだよって、土蔵にいたのか?」
「お兄ちゃん!?」
ついさっき、いたずらをした私に士郎が衛宮の母屋を捜索したあげくに、ついにこの隠れ場所を見つけてしまったのだ。
つい、魔法陣の輝きとその術式の懐かしさに我をわすれて、自分が逃げていたことを忘れていたのは失敗だった。
「こんなところに逃げ込むなんて・・・・・・って、イリヤ?」
「お兄ちゃん、この魔法陣は誰が作ったの?」
魔術師としては未熟な士郎にとって、光輝く魔法陣の中で立っている自分はどんな風に見えたのか?
士郎に聞かなくても、その驚いた表情から何を想っているかはさっしがすぐついてしまう。
だからそれは問わずに、自分の疑問の本質を真っ先に尋ねてみた。
「ん? これは、爺さんが作ったんだろ? この土蔵は爺さんの工房みたいなものだったからな」
驚きから我に返った士郎が、たどたどしく返答を返す。
キリツグが作ったの? アインツベルンの術式なのに?
士郎の表情から、その言葉に嘘は感じられない。けれど、その言葉と魔法陣から感じる術式の魔力には矛盾を感じる。
わき上がった疑問を・・・・・・どうしようかと、迷う心に光明を差し込むかのような清涼な声が、次の瞬間土蔵に響き渡る。
「違います、士郎。この魔法陣は、アイリスフィールによって作られました。私もその時お手伝いしましたので・・・・・・
」
「お母様が? 」
そう言えば、お母様はキリツグと共にアインツベルンを出て、聖杯戦争に出かけていた。
幼かった自分は、その時キリツグが契約したセイバーを直接見ていた訳ではなかったので、セイバーにお母様の名前を語られたとき、一瞬、記憶をたぐり寄せるのに時間がかかった。
「はい、イリヤスフィール。あなたの母アイリスフィールと私は、第4次聖杯戦争にて仮のマスターとそのサーヴァントとして共に戦い、その折りにこの魔法陣を作ったのです」
「・・・・・・、そうか、その魔法陣が次の聖杯戦争でセイバーを呼び寄せ、オレと巡り合わせたんだな・・・・・・」
この魔法陣が、連綿とつながる第4次と第5次の聖杯戦争とエミヤ達・・・そしてお母様をつなぐ起点だったのだ。
「セイバー、お母様は・・・幸せだった? 」
「・・・・・・、申し訳ない。あなたの母上、アイリスフィールを・・・・・・私は、護りきることが出来なかった」
「・・・・・・」
「ですが、ご息女が聖杯戦争の呪いから解き放たれることを心から願っておりました。聖杯戦争が、士郎によって無事に終わらせることができ、再びその災厄にあなたが会うことがなくなったことを、お母上は喜んでいるはずです」
「お母様」
今は、士郎やみんなと一緒にいることが当たり前だと感じるこの幸せも、お母様には手にすることが出来なかった幸せだ。輝く魔法陣にかつて母が居たかと想うと、・・・・・・ホムンクルスであるはずの自分の頬に涙が伝った。
「セイバー、爺さんはイリヤのお母さんを愛していたんだろ? 」
士郎の問いかけに、セイバーはしばらく沈黙でもって私と士郎を交互に見つめた後・・・・・・ゆっくりと次の言葉を紡いだ。
「・・・・・・、私は、切嗣とはほとんど言葉も交わしておりません。彼の考えは私には推し量ることは憚られますが、少なくともアイリスフィールは彼に愛されていたと聞きましたし、彼は妻の為に聖杯戦争を戦っていたように想います。残念ながら切嗣はその願いを果たすことはできませんでしたが、代わりに士郎が聖杯戦争を無事に終了させることができました」
「・・・・・・キリツグ」
「そう言えば、・・・・・・爺さんが生きていた頃、よく家を空けていたことがあったんだよ。多分、イリヤを探しに行っていたんじゃないかな? 」
「キリツグは、お母様や私を・・・・・・裏切った訳じゃない、愛していたってことなの? 」
士郎は、黙って私を抱きしめてくれた。
自分の顔が涙で崩れるのを誰にも見られないように・・・・・・
愛おしむように・・・・・・
きっと、そのぬくもりは、、、キリツグの、、、、、、