次の日、痛んだ体を引きずって広間に来てみると、ラニとシオンが神妙な面持ちで向かい合っていた。
「何を…?」
不審に思い彼女達に近づこうとするオレをラニの師が止める。
「シオンがエルトナムとして、ラニの実力を測りたいと言い出してね。」
次の瞬間、ラニとシオンは突然戦いだしていた。
ラニの師の話によると、彼女達は聖杯戦争後のラニの改善対応策を練る為に、ラニによるデーターから転用した霊子を使った戦闘を実験しているとのことだった。
彼女達の戦闘を見ていると、接近戦による体術勝負では、シオンの攻撃にラニはよけることでどうやら精一杯のようだった。距離をとろうとするラニに、シオンのエーテライトの糸が襲い掛かると、ラニが糸の前に手を一閃し一瞬のうちに糸が消え去る。
そしてシオンがラニに近づきすぎるとラニから閃光が放たれ、シオンの服が破れていく。
錬金術とよばれる系統の魔術については自分にはよくわからないが、それが魔法となんらかわりない威力ということはうかがい知れた。
本当にこの戦いに危険はないのだろうか?誰かが止めなくてもいいのだろうか?
ラニの師すら止めようとはしない…いや、錬金術の研鑽のみが至上の命題とされるエルトナムにおいて、そんなことを考える人間なんて誰もいないのだろうが…。
不安を抱きつつ彼女達の勝負の行く末を見守るしかない自分がはがゆかった。
錬金術勝負でラニの火力は軍を抜いていたが、シオンは巧みにそれをよけラニを退けていく。
隙をつかれシオンの攻撃によってついに跪いたラニに対して、躊躇うことなくシオンはとどめの一撃をくりだそうとする。
試すことは全て試しもはや打つ手がないと判断したのか、諦めたかのようなラニの様子に…オレは…
思わず…彼女の前に飛び出ていた。
とっさにラニを抱きしめ、横に横転する。その脇をシオンのエーテライトの糸が突き刺さった。
シオンの次の一撃が…と思って身構えたが、シオンは黙ったままオレとラニを見つめている。
腕の中からラニの呟き声が聞こえた。
「……また、あなたに助けられましたね。」
また、ということは聖杯戦争でも自分は彼女をこんな風に助けていたということなのだろうか?
シオンは仁王立ちの姿勢で辛らつにラニに告げる。
「ラニ、火力は十分ですがあなたには柔軟な対応力が欠けています。」
「申し訳ありません。エルトナムの後継として使命を果たすにはまだ不十分ですね。」
ラニは無感情に返答する。
「そんな言い方をしなくてもいいだろ?ラニはまだ経験不足なのだから!」
怒りを込めて、オレはそう言わずにはいられなかった。
「そこで提案があります、シアリム・エルトナムよ。彼をラニの助手にしてはいかがですか?彼の手助けがあればラニの思考はもっと柔軟性が上がるし、今のようなとっさの対応もカバーできることでしょう。」
シオンの急な言葉に、ラニの師は…嬉しそうに返答した。まるで、この結果は既に予測済みであると言わんばかりに…。
「なるほど、シオン。確かに君が危惧した通りの結果が今証明されたね。彼はラニを導く運命の星であることだし、私としても異論はないが、……後は彼次第かな。」
ラニの師はシオンからオレに向きなおし、問いかける。
「どうかな、もしよかったらラニの助手になってもらえないかね?」
その問いに「オレは……」
もちろん心の中で答えは決まっていた。だが、肝心のラニの心は……
腕の中のラニの方を振り向き、様子を伺う。

「きっと今までも、あなたが私を導いてくれていたのだと思います。もしあなたがよければ、これからも私を助けてもらえないでしょうか?」
今なら確かにわかる。ラニのわずかだがその声の響きの中に、嬉しそうな気持ちが確かに感じとれる。
その返答にオレは…即答した。
「もちろんだとも、ラニ。これからも君と一緒に…」
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