傍観

「ミャアミャア」
冬木市の港にウミネコの鳴き声が響き渡る。今日もいい釣り日和だ。
静かに波打つ波止場で、ランサーは竿から糸を垂らし魚を待つ。
朝日を浴びてキラキラと輝く水面を眺めていると、今までの人生で戦いばかりだった過去の日々が遠い世界に思えてくる。

「ガォー」
(いつもお魚をくれるツンツン頭のお兄ちゃん!)
「ん?、何だセイバー似のワーライオンか。わりぃな…残念なんだが、今日はまだ何も釣れてねぇんだ。」
「ガォ…(しょぼん)」

残念そうな声で叫ぶと、セイバーライオンはランサーの脇に座り遊び出した。

この港で釣りをしていると、いろんなやつらがやってくるが…最近は訳のわからんやつもやってくるようになっていた。
一見、セイバーがライオンの着ぐるみを着たかのような生き物であるワーライオン。
だが、オレは細かいことを気にするつもりは全くない。
むしろ時折退屈そうに遊びにやってくるワーライオンに釣れた魚を分けてやると、嬉しそうに食べるその様子が見ていて楽しいので、釣りをしながらいつも相手をしてやっている。
ワーライオンも自分を好いているのか、自然と釣り場にやってくるようになっていた。


釣りを続けて…しばらくすると、紅いフィッシングウェアに身を包んだ弓兵もやってきて、波止場の向こう側を占拠した。

ちっ、……嫌な野郎がやってきやがったか。
波止場に入ってくる時に、むこうもこちらをちらりと嫌味な視線を向けていたことは知っている。
釣れるたびに自分の優位性を言ってくるから、聞き流すことにはしているが…

「……今日は…釣れんな。」
紅い弓兵からうめき声が聞こえる。
「当たり前だろうが…!。釣りっていうのはな、釣り糸を水中から魚に見えないように隠しながら餌を流すんだ。決め手は道具じゃなくて、水の流れな・ん・だ・よっ!!今は潮が止まっているんだ、魚が来なくて当然だろうがっ!!!」
「がぉ〜」
(そうだ!そうだ!)
「むぅ……、仕方ない。潮が動き出すまで待つか…」
己の不利を悟ったのか、紅い弓兵からそれ以上の反論は返ってこなかった。

「おい、ランサー。少し早いが、弁当を持ってきたので昼食にしないか?弁当を分けてやる。」
「どういう風の吹き回しだ?てめえがオレに塩を送るなんて、何を企んでやがる。」
「貴様だけなら、分けてやる義理などないが…。凛がセイバーライオンを気に入っているからな。そのついでだよ」
「けっ!!そうかよ。」
「がぉ〜(怒)」
(そんなもの食べるもんか!!!)
青い槍兵と紅い弓兵の不穏な会話に、脇で聞いていたセイバーライオンは紅い弓兵に警戒のうなり声をあげる。
「……。実は、今日作ってきたハンバーグは私特製のデミグラスソースをかけてあるんだが……、食べて貰えなくて残念だ。」
「がっ!?が・お・ぉ〜ん…(哀)」
哀しいかなセイバーライオンはセイバーとその特質が似ているため、食べ物に弱い部分も同じである。目の前においしそうなハンバーグを見せつけられて、セイバーライオンは食欲との葛藤の叫び声をあげた。
そのもの哀しいワーライオンの声にランサー兄貴が応える。
「別に無理しなくてもいいぜ?オレも一緒に食べられるそうだから、ご相伴にあずかろうじゃねぇか。」
「がぉ〜(喜)」

珍しく、オレと紅い弓兵は真向かいに座り、弓兵お手製の弁当を食べることになった。
「がぉ〜」
(このお肉、とってもおいしい!!)
自分の横で、喜びの声を上げておかずのお肉を食べるワーライオンを微笑ましく見ながら、自分もおかずをつまんで食べてみる。
……確かに、美味い。
「オレも飯は自分で作るが…、相変わらず芸の細かい奴だな。どうやって、こんなに様々な材料拾ってきて調理してんだ?どう見ても、その辺の魚や山菜とって来たわけじゃなさそうだし…。嬢ちゃんから、貰ったりしている訳か?」
「そんな訳はなかろう。貴様がバイトをするように、こちらとて自分の収入の手段はちゃんと考えてある。」
「ほぉ〜、そうかい。」
一体どんな手段なのか聞いてみたいところだったが、この皮肉屋である紅い弓兵に自分が尋ねたところで答えはすまい。

気を取り直し、話題を弁当から別に切り替えることにする。
「そういや、お前、新都のビルからの狙撃…止めたのか?」
毎夜、弓兵が冬木市に侵入しようとしてくる使い魔を狙撃し、この街を守ろうとしていたことは知っていた。時折冬木の上空を飛ぶ弓矢を見て、あぁ…やってるなと思ったものである。
だが最近はその狙撃を見かけなくなったので、どうしているのかと聞いてみたのだが……。
「あぁ、あれは止めにしたよ。別にあの使い魔は放っておいても無害のようだし、衛宮士郎もその正体をつかみつつある。ならば、これ以上私の出る幕ではあるまい?」

その使い魔の正体を自分は…うすうす知っていた。
自分の以前のマスターであるバゼット・フラガ・マクレミッツが新たなサーヴァントと契約したことが関係している。
だが、自分はそのことを口にするつもりはない。

第二の生とはいえ、サーヴァントには戦いの役目のみしか本来与えられないのだ。
自分は強敵と巡り合えることを幸せだと思うが、この春の陽気のようにぽかぽかと暖かい日常も存外悪くはなかった。だからこの日常を自分から敢えて壊すつもりはない。
あの衛宮の小僧が来ない限り、自分は傍観に徹するつもりだった。

「そうだな。オレ達は見守ってりゃいいだけの話だしな…。」

現実主義者であるはずの目の前の弓兵も、意外とこの日常を満喫している様子なのだし、もう暫く楽しんでいても悪くはないだろう。

弓兵の弁当を堪能し終わり、潮が動き出したことに気づいた二人のアングラー達は、再び釣りを再開することにした。


釣り場(ランサーズヘブン)での、槍と弓の会話。(ちなみに釣りでは、魚が食いついてからが道具の差であって、ヒット率には何ら関係しないので、竿一本で も槍は十分に弓と対等な戦いをしているはず。でも、道具の性能差を楽しそうに競い合ってはしゃぐ弓兵達は見ていて楽しいですが…)

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