目の前に広がるのは無限の闇。
この何もない空間が凛の言う仮想空間なのだろう…。
暗闇に目をこらす。

いる…マスターはこの仮想空間に確かにいる。
姿は見えずとも、マスターの気配だけはこの闇の中から感じとれる。
恐らく、今 マスターの意識はサーヴァントの霊体化に近い状態なのだろう。

通常 魔術師では考えられないことだが、ウィルスによってマスターがサーヴァントに近い存在にされているならば、ありえないことではない。凛が言っていたように、ムーンセルの演算はサーヴァントと同様に魔術師にも働いているのだから。

だが、マスターの意識に触れられるかどうかは別の問題である。
今、マスターの精神は、ムーンセルのウィルスと凛の抗体プログラムとのせめぎあいで、混乱状態にあるはずだ。こちらの投げかけにうまく反応できる状態ではない。
マスターの心にひっかかる何かを投げかけて、わずかでもいいから反応を引き出し、そこからマスターの意識にアクセスするしかない。

水面に石を投げて同心円状に波紋が広がるかのように、俺はマスターに向けて闇の中へ声を投げかける。

「マスター!俺だ、アーチャーだ!マスター、…応えてくれ!」

周囲に蜃気楼のように、今までマスターと共に戦ってきた彼女のさまざまな記憶の情景が浮かび上がっていく。
だが、それは過去の記憶の残影であって、マスターではない。
もっとマスターの心の奥に響く言葉を考え、投げかけなければ…。

呼びかけても本当にマスターから反応が返ってくるだろうか?
そんな焦りを抑えつつ、俺は今までのマスターとの思い出を思い出しながら、諦めずにマスターに向けて呼びかけ続ける。

だが、繰り返し呼びかけるも、マスターからの返事は返ってこないまま…一つの情景が目の前を通り過ぎる。それは、マスターが俺の腰の外套のすそを持って、俺を呼んでいるマスターの姿だった。

これは…ああ、ここにくる直前の…そういえば…マスターはあの時、、、
過去の情景に思わず自分も回想にふける。

そして…その時のマスターに想いを重ねる途中で、俺は急激な恐怖に襲われ、思わず俺は膝を崩しそうになる。
そ れは、突然急に自分の周囲が闇に包まれていき、自分のあるはずだった世界が闇に飲み込まれて……、否、世界を把握するはずの自分自身が消滅していくことに 理解が伴わず、感じ取れるのは体が鉛になっていくかのような脱力感。奥からこみ上げる恐怖で自分の中で何かが起こったことだけはわかる。…その恐ろしさ に、思わず足が立ちすくむ。
怖い?…自分が消えることが恐ろしい?。それとも戦って死ぬことがか?サーヴァントである俺が…か? いや、……違う。これは俺ではなく、マスターがウィルスに侵食され、感じとっている恐怖なのか!?


さらにその感覚を追うように、暗き虚空の向こうにいるはずのマスターへ意識を向けると、次第にその恐怖感は強くなり、闇の中から小さな悲鳴が聞こえだした。
それは耳を澄まさないと聞き取れないほどのとても小さな声で…
「……!……!ア…、チャー…」
それは小さな反応だったが、確かにマスターの声だった。
「マスター!気づいてくれたか!今、君を助けに来た。」
「……アーチャー。……助けに、来てくれたんだ。」
まだマスターの姿は見えないが、その声のか細さからマスターの意識が弱りきっていることが感じとれた。自分の体が鉛のように重く感じ、俺の声を聞くのも辛そうな…まるで、そんな風に。

あの時、マスターはウィルスの攻撃に耐えながら…実はこんな気持ちで、俺に助けを求めていたというのか…
「当然だろう。よく頑張ったな、マスター。」
己のとんだ思い違いに後悔の念が沸かずにはいられなかった。


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