あいつのいない世界で

今日はやけに空が曇っている。
天気予報でも冬木市は雨と予報されているのだからわかりきったことなのだけれど、こんな日は特に気がめいる。
いや、あれから私に気が晴れた日なんてあったのだろうか?
数年前にあの馬鹿が目の前から消えてから……。

士郎が正義の味方と自称して、フリーランサーとして人助けに出かけて以来、私は士郎をずっと見守り続けた。
あいつのやり方を甘いとわかっていても、その甘さに私自身も救われる想いがしたから。
そして、困った時にはちゃんと私のところへ相談しにやってくる士郎に私は安心していた。
士郎の私への扱いが恋人だったこともあるだろうし、実際彼も私のことを恋人として想ってくれていたから。
彼が自分の夢を追いながら、同時に私を思いやっていてくれていたことはとても嬉しくて、だから私があいつを信じるようにあいつも私を信じている…そう思っていた。
だけど、あいつが本当に困った…最期のあの時に士郎は私を頼らなかった。
それが、今は悔しくてならない。

気がついたら、あいつは独りで周囲の蔑みを当然のように受け入れて消えていった。
それが、正しいことだから…自分のやっていたことが間違っているのだから…と。

あんた、馬鹿よ。
なんで、私に相談しないのよ。
馬鹿みたいに甘くて、何でもかんでも他人を許して、人助けやって。それなのに…自分は間違っていた…だなんてっ!
最期ぐらい、自分が正しいんだって言いなさいよ。

士郎のいない世界で、それでも私は胸に空いた穴を抱いたまま、魔術師として生きていく。
士郎と出会う以前のように、遠坂家の教えに従い…強く……孤高に……。

だけど、
あいつのことは…忘れてやるつもりは…ないんだから。



ここ最近は、現実に追われて、冬木の土地の管理だけでなく魔術師としての仕事も忙しくなってきた。
ついこの間にも、時計塔に行ってきたけれど、そこでも物騒な噂が飛び交っていた。
最近、世界中で異常な天変地異やそれに付随する事件が起こっているが…それが自然界のものでなく実は人為的な魔術関係者によるものではないか?と。
まだ、噂の段階なので、私にそれに関しての解決依頼がくるということはなさそうだったから、私は聞き流してはいたのだけど……もしかしてその関連かしら?。
久しぶりに冬木に戻り、町を歩いていると……なんだかひどく誰かに見られている気配がした。

その気配が普通の一般人なら気にすることはないのだけれど、その気配の先に強い魔力を感じたからには魔術関係者とあたりをつけてもよさそう。知人なら姿を見られてもどってことないでしょうに…全く、私の後をつけるなんていい度胸ね。
簡単な武道なら私だって身につけているんだから、魔術師だからと言って私を甘く見ないことね? 
どこかの誰かさん。
私の後をついてくる不穏な気配を振り切ろうと私は道を曲がり、そこで走りだす。
相手もしつこく私を追いかけ、その動きは只者ではなさそうだった。
私の運動能力ではどうやら振り切れそうになさそうだったので、立ち止まり振り向きざまに遠慮なしのガンドを飛ばす。

私の後ろを追いかけてきたその男はガンドをあっさりと避けると、姿を現し、私の方をじっと見つめている。
「待ってくれ、凛! いや、……遠坂だったかな?」

一瞬……誰かと思った。

目の前の男の紅い……概念礼装のようなその服装は、以前私が知っていた黒き戦闘着ではなく、前髪が後ろに掻き揚げていて、記憶の中のあいつと繋がらなかったから。
だけどその声は確かにあいつだった……だから。
「…………、嘘っ! 。」
驚きが止まらず、思わず声が震える。
「まさか……あなた…士郎、、、生きていたの?」
目の前の男は、いや…士郎はうなだれたまま返事を返そうとはしない。
「生きてたんだったら、なんで私に教えてくれないのよ……! 」
思わず感情が昂り、叫ぶように声が荒ぶる。
目が潤み、あいつの姿がゆらいで見える。だけど、涙を流した姿をあいつには見せたくない。
「……生きているっていうのが正しいのかどうかわからないが、とりあえず……っ! 」
後ろをちらりと様子見て、あいつは私を抱きかかえて飛び上がった。
「なっ…!!!」

ふわりと浮き上がった私達の真下で爆発が起きる。
「なによっ! これっ? あんた、また何かやらかした訳?」
「ひどいな…遠坂。俺がやった訳じゃないさ。」
「じゃぁ…どういうことなのか説明しなさいよ。」
士郎は私を抱えたまま、冬木の町を滑走していく。
「緊急事態ってやつさ。多分、時計塔でも噂になっているんじゃないかな? 反英雄…いや信仰心薄い英霊だから俺が呼(召還)ばれた。」
「英霊って、士郎…あなた 」
「ああ、代償はもらって、もう世界と…英霊の座と契約は済んでいたからだろうな。死んだあの時に俺という英霊が生まれて、使役される形で…今まで生きて来た。」
「どんな形でも構わないわ。あんたが生きているんだったら…それで私は満足よ!」

聖杯戦争を経験したのだから、英霊になるということがどんなことかは察しがつく。
それでも…英霊となった士郎は、かつて私の目の前から消えてしまった士郎とその風貌が変わった部分も多いけれど、あいつのあの馬鹿な部分は未だに変わらず残ったままみたいで…安心した。

「遠坂、どうやら今回は俺一人の力じゃ解決できそうにないみたいなんだ。悪いんだが…お前の力を貸して欲しいんだが……」
「今さら、何 遠慮してんのよ。あんたは私を頼ればいいのよ。英霊なんかになって、馬鹿っ! 」


死んだと思っていたあいつは次に会った時には英霊に生まれ変わっていた。
私に会いにこれたのもこの緊急異常事態が起こったかららしい……。
あいつがせっかく私を頼ってきたのに、それを解決してしまったら……英霊になってしまったあいつは存在意義を失い……その先で、私達が出会うことは二度とないだろう。

だけど、あいつが英霊の形で…それでも生きていると知ることが出来て…よかった。

あいつが目の前から消えた…その日から、私の時間は止まっていた。
あいつも…英霊になって、その途中で、自分自身を殺そうとしたり、そこでも私に叱りとばされたりして、、、迷いながら、、、だけど、自分のやってきたことは間違っていなかったと、、、
いつの間に、答えられるようになっていた。

だから、私も全力でそれに応える。
あいつが前を向いて走るように、私も……。






弓×凛。 アーチャールート(Fateの士郎ではなく、英霊エミヤとなることになった士郎が英霊になるまでのルート)にて、士郎(英霊エミヤ)が死に別れ た凛と再び出会うお話。 士郎はアーチャーとして再びFateにて凛と主従関係になれる訳なんですが、そのFateでの凛はエミヤが英霊となるまでに共に すごした凛とは違うはずなんです。エミヤが英霊となった時点でその世界に残してきた凛は、エミヤが英霊として世界を彷徨っている間、ずっとエミヤ(士郎) のいない世界で生きていると思うのですが、一体どうしているのかなと思うのです。エミヤがいなくても、彼女は強い女性だから強く生きていっているとは思う のですが…エミヤが実は生きていることを知らないままというのは哀しいなと。(お願い 普通同じ人間なら年月を経ても一番変わりにくいのは声の質だと思う のです〈服装や口調、顔つきが変わったとしても〉。何年経っても、声を聞いたら確実に昔のあの人だと確信できる。でも、士郎とアーチャーの声は声優さんが 違うように全く違う声になっているので、アーチャーの声を聞いて、それが士郎だと思い浮べられるかどうか実はツッコミどころ満載なのですが、話しが成り立 たなくなるので一応その点はご了承の上でご覧ください。)

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